白ライオンに触れた日|その体験は、もうできません

南アフリカの旅の最後に立ち寄った施設で、白ライオンとチーターに触れました。8年後、あの体験はもう提供されていません。
※この記事には、2015年に園内で起きた死亡事故についての記述が含まれます。
本当は、前日に来るはずだった
もともとの予定は、こうでした。
事前に旅行会社経由で申し込んでいたのは、「ウォーキングwithライオン」という、放し飼いのライオンと一緒に歩けるツアーです。空港に13時に迎えが来て、施設へ移動し、15時からツアーに参加。終わったらそのままヨハネスブルグのインターコンチネンタルへ、という段取りでした。
ところが、ヨハネスブルグ行きの飛行機が5時間ほど遅れてしまいました。
到着したのは夕方です。15時の予約はとっくに過ぎていて、その日はもう、どこにも行けません。
事前予約は時間指定で、キャンセル規定は「10日前からは全額」でした。1日前の遅延ではどうにもならず、申し込んでいたウォーキングツアーは、そのまま無駄になりました。
諦めきれずに、ホテルのコンシェルジュに相談してみました。
すると、翌日の車を手配してくれることになりました。施設まで行って、そのあとそのまま空港まで送ってもらう、という段取りです。
そんな経緯だったので、この日はあまり時間がありませんでした。 サファリドライブをして、白ライオンとチーターに触れて、駆け足で回ったのを覚えています。
車の中では、襲われない ― のはずだった
朝、園内をセルフドライブで回りました。開けた草地に、ライオンたちがそのまま放されています。

車で近づいても、ライオンは動じません。
これまでのサファリでも、ガイドさんに何度も言われてきました。「車の中にいれば大丈夫」「降りさえしなければ襲われない」と。実際、何度も間近まで寄りましたが、ライオンが向かってきたことは一度もありません。
でも、それは正確には「車の輪郭を保っていれば」という意味だったのだと、あとになって知りました。
ライオンは、車を人の形としてではなく、一つの大きな塊として認識しているそうです。だから、乗っている人が座ったまま、車の輪郭からはみ出さなければ、無視されます。逆に、腕やカメラが外に突き出た瞬間、そこは「車」ではなく「人」として見えてしまう。
2015年、この施設で、車の窓を開けて身を乗り出し、写真を撮っていた観光客が、ライオンに襲われて亡くなる事故が起きています。
私たちも、この日、写真を撮るために窓を開けていました。身を乗り出してはいなかったので大丈夫でしたが、いま振り返ると、少し怖くなります。
白ライオンに触れた。でも、抱っこできる大きさではなかった
サファリドライブのあと、白ライオンと触れ合う時間がありました。
事前に調べたとき、ネットには「子ライオンと触れ合える」と書かれていました。
でも、目の前にいたのは、抱っこできるような大きさではありませんでした。
わー、顔が私より大きい。

大きくてちょっと怖かったけど、かわいくって。それが当時の正直な印象でした。
一度、「シャー」と威嚇されて、思わず後ずさりしてしまったのを覚えています。

白ライオンは、アルビノじゃなかった
あとになって知ったのですが、白ライオンはアルビノではありません。
目の色は普通のライオンと同じ琥珀色で、鼻や肉球にも色素があります。全身の毛だけが白くなる、**白変種(リューシズム)**という別の遺伝現象だそうです。
これは、両親がそろって同じ劣性遺伝子を持っていないと生まれません。しかも、この遺伝子が自然に存在するのは、南アフリカのローフェルド地方の、ごく限られた一帯だけだと言われています。
面白いのは、親が白いとは限らないということです。
劣性遺伝子なので、見た目は普通の茶色いライオンでも、その遺伝子を持ってさえいれば、白い子が生まれます。

この写真を撮ったとき、私は「茶色い子が白い子をなめているから、親子ではないのかな」と思っていました。でも、白ライオンの遺伝の仕組みを知ったいまは、むしろこういうことなのだと分かります。
そして──これは南アフリカで最初に泊まったTshukuduと、同じ地域です。
自然界に残る白ライオンは、十数頭ほどしかいないとされます。一方で、飼育下には世界で数百頭がいます。
野生ではほとんど生まれないのに、飼育下にはたくさんいる。それだけ、集客のために意図的に交配されてきたということなのだと思います。
片目のチーター
チーターとも、写真を撮りました。

よく見ると、片方の目が細く閉じたままでした。もしかしたら、保護された子なのかもしれない。当時、そんなふうに思いました。
野生では、片目では狩りができません。だとしたら、この子がここにいる理由は、それだったのかもしれません。
そして、このチーターはとてもおとなしかったです。
隣に座っても、写真を撮っても、まったく動じません。野生をまるで感じさせませんでした。
このことを思い出すのは、同じ旅で、まったく違うチーターに会っていたからです。
Tshukuduで一緒に歩いたNtombiは、人に育てられた子でした。それでも、鳥の声や草むらの音がすると、一瞬で表情が変わって、野生の顔になりました。
同じ「人に育てられたチーター」でも、こんなに違うのかと思います。
8年後、その体験はなくなっていた
いま、この施設の公式サイトを見ると、こう書かれています。
「子ライオンはもう飼育していません。」
白ライオンとの触れ合いは、現在は提供されていないようです。今できるのは、キリンへの餌やりだけになっています。
理由は、公式には説明されていません。ただ、南アフリカでは、この数年で大きな動きがありました。
2021年、政府は「繁殖、狩猟、子ライオンとの触れ合い、そうした商業的な利用は望まない」と表明しました。2024年には、飼育下のライオン産業を終わらせる方針を閣議決定し、事業者には転換のための猶予期間が設けられました。
この施設が、その流れを受けて体験をやめたのかどうかは分かりません。それでも、8年前に私が体験したことは、もう存在しないのだと思います。
批判すれば済む話じゃない
正直に言うと、「触れ合いがなくなってよかった」と、単純には思えません。
動物園や、こういう施設も、結局は入園料がなければ動物に餌をあげられません。大きな動物ほど、餌代もかかります。
入園料がなければ、動物は飼えない。
でも、だとしたら、動物園って、何のためにあるんだろう。
その問いに、私はまだ答えを持っていません。
3頭の動物、3つの結末
同じ旅で、私は3頭の動物に会いました。
母をライオンに亡くし、人に育てられたチーター。
洪水で流され、人に育てられたカバ。
そして、集客のために交配された白ライオン。
保護されて、寿命をまっとうした子。今も元気に人を出迎えている子。そして、体験そのものがなくなった子。
同じように「人に育てられた動物」でも、たどった道はまったく違いました。
※この記事は2018年5月に訪問した際の記録です。現在の運営状況は、公式サイトで確認したものです。最新の情報は必ず公式サイトでご確認ください。
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